目の前の幸せから逃げないで

光毅が入って 1か月が過ぎて。

9月から 鈴香は 産休に入った。


鈴香が いなくなっても

光毅の態度に 変化はなく 熱心に 仕事をしてくれる。


鈴香から 引き継いだ 仕事以外にも

私が 使いやすいように システムを 工夫してくれたり。


「あれっ?閲覧数と 売上げが グラフになっている。」

私が 驚いて言うと

「この方が 見やすいかと思って。前の方が良ければ すぐ戻します。」

「ううん。全然、こっちの方がいい。ありがとう、ハタ君。」

「いいえ。あと、時間と曜日ごとの 売り上げも、表に まとめてみました。」

光毅は 立ち上がって、嬉しそうに 説明してくれる。


「わぁ。こういうの 欲しかったの。すごく、解りやすいわ。助かる…」

控え目な 光毅が 積極的に 

仕事をしていて 私は 嬉しかった。


私と二人で 仕事をすることが 

光毅にとって 気詰まりじゃないか 心配だったから。


光毅が 生き生きと 仕事をしている姿に 私は ホッとした。


産休に入って 一か月が過ぎた 10月の初め、

鈴香は 女の子を 出産した。


「ハタ君、見て。鈴香の 赤ちゃん。」

鈴香から 送られて来た写真を

私は 光毅に 見せた。

「わぁ。こんなに 小さいんだ…」

光毅は 驚いた顔で 赤ちゃんの写真を 見つめた。


「昨日まで、鈴香のお腹に いたんだもの。」

「何か 不思議ですね。」

光毅は しみじみと言って、私を見た。

「ホント、不思議よね。」

私も少し、しんみりとして 答えた。


「三島さんは…」

「んっ?」

「いえ、何でもない…」

「んっ?そう…?」


私は、光毅が 言い淀んだ言葉に 思い当たった。

多分『三島さんは、子供 欲しくないんですか?』って、

光毅は 言いたかったんだ。


「いつになったら、私。自分の子供 抱けるのかな。」

言い難そうな 光毅に代わって、先に答える私。

「えっ?」

「ううん。仕事が子供だから、いいの。」


自虐的に 笑う私から、光毅は そっと目を逸らす。


慰め方を 知らない光毅を 私は 困らせてしまった。







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