目の前の幸せから逃げないで

「だから、簡単に 言わないでって。みつきは 私より 12才も 年下なのよ。」

「”みつき”ねぇ…」

つい、名前で 呼んでしまった私を 鈴香は からかう。

「鈴香、止めてよ。」

私は 顔を赤くしてしまう。


「やだ、由紀乃。何 照れているのよ。こっちまで 恥ずかしく なっちゃうじゃない。」

「だから…ハタ君は 私より ずっと若いのよ。私なんて いつか 飽きられるわ。」

「そんなの わかんないじゃない。私だって いつ 啓介に 飽きられるか わかんないわ。」

「それとこれは 別でしょう。」

「一緒よ。人の心なんて 縛れないし。先のことなんて 誰だって わからないじゃない。由紀乃、いつも そう言っていたじゃない。取り越し苦労して 今を無駄にしたくない、って。何か起こったら その時に 考えればいいって。私、由紀乃の その考え方に いつも 救われていたのよ。どうしたのよ。自分のことになると からっきし 意気地なしなのね。」


「そうよ。私 本当は すごく憶病で 意気地なしなの。今だって みつきに 飽きられることが 怖いの。」

「もし この先 ハタ君が 由紀乃に飽きたとして。その時は 由紀乃も ハタ君のこと 飽きているかもしれないのよ。由紀乃の気持ちが ずっと醒めない保証だって ないじゃない。」

「それは…そうだけど。」

「いいじゃない。今は 二人とも 熱々なんだから。ハタ君が ウチで働いてくれるなら。このまま続けてもらえば。私だって その方が 気が楽だし。」

「本当に いいと思う?」

「思うわ。紗良が 病気になったりしても ハタ君がいれば 安心して 休めるし。」


「そうじゃなくて…私が ハタ君と 付き合うことよ。」

「いいも悪いも…お互いに 大人なんだから。そんなこと 自己責任で やって下さい。じゃ、私が ダメって言ったら 由紀乃 止めるの?」

「でも…鈴香 清原さんの時 すごく 止めたから。」

「状況が違うじゃない。清原さんには 家族がいたのよ。今の 由紀乃とハタ君は お互いに フリーなんだもの。なにも 止める必要ないじゃない。」

「……」







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