スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
 ゆかりはパン、と目の前で乾いた音を鳴らす。有紗は音に驚いて、鬼のような面相をくしゃりと崩した。

 容姿端麗、才色兼備、窈窕淑女――美人を表す言葉を与えても何ら違和感もないほどに、有紗の容姿は整っている。もちろんそれも、彼女のプライドの高さを形成した要因のひとつであった。

 そんな有紗が、自分の顔を不細工にしてまでも愚痴をこぼす。相当嫌なことがあったというのは、誰が見てもわかるだろう。

「だって、おかしくない? 役職者が表彰されるなんて納得いかない」
「まあまあ。マネージャーって言っても営業以上に仕事取ってきちゃうんでしょ? そりゃもう、レジェンドって呼ばれても仕方ないよ」
「その呼び方やめて! 悔しいから!」
「でもさ、仕事もできて顔も良くておまけに人望も厚いなんて。そんな人なかなかいないよ?」

 ゆかりは「ほらね」と顎でデスクの向こう側をさす。視線の先には、会議室から出てきた男性が、社員たちの視線を集めていた。

 鶴生 慶汰(つりゅう けいた)三十二歳。一八〇センチメートルを超える高身長と、スーツの上からでもわかる肉体美。世の中の男性の欲しいパーツを集めたような端正な顔は、もはや彫刻のよう。容姿までも憎たらしいと、有紗はまた唇を噛んだ。

 慶汰は昨年、大手広告代理店からのヘッドハンティングにより、デジタルマーケティング事業部のマネージャーに最年少で就任した人物である。

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