あなたに食べられたい。

 寝室に案内され、初めてだということを伝えるとジローはことの他驚いていた。

「や、うん。わかった。優しくする」

 一日中潮風に吹かれていた身体を清める時間を与えられたのは幸運だった。
 シャワーを浴びている間に心の準備もできていく。
 栞里はベッドの縁に腰掛け、ジローが浴室から出てくるのをひたすら待っていた。
 寝室の窓からはこれまで自分が生きてきた街が一望できた。まるで別の世界に来たような気分になる。
 
「栞里」

 二十八年間、呼ばれ慣れていた自分の名前が妙にくすぐったく感じる。
 抱き寄せられ背中に逞しい胸板の厚みを感じた。ジローの顔が近づいてきて、目を瞑る。柔らかい唇が降りてきて、栞里の心が震えた。
 ジローが好きだ。
 もっと心と身体の奥まで暴いて欲しい。

「あ、ふ……」

 気持ち良い。気持ち良すぎてどうにかなりそう。
 ジローの膝の上に乗せられた栞里は首に腕を回し必死になって、覚えたてのキスで応えた。

「やめるならまだ間に合うぞ」
「何でそんな意地悪なこと言うんですか?」
「欲しいって言わせたいからに決まってんだろ」

 すっかりジローに骨抜きにされた栞里は容易く自らを差し出した。

「お願い……。私を食べて」
「ああ、覚悟しとけ」

 あなたに食べられたい。
 どうかその大きな手と口でペロリと貪って。
 ベッドに押し倒されても不思議と怖くはなかった。ジローが優しくすると言ってくれたから。彼の言うことならなんだって信じられそうだった。

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