Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜
* * * *

 二人が会場に移動した時には、すでにたくさんの人が集まっていて、既に歓談を始めていた。

 いつもならば父と兄の後ろで笑顔を振りまいていたが、今日は誠吾のサポートという役目のため、芹香は静かに身を潜めていた。彼の仕事のために、なるべく寄ってくる人を牽制しなければならない。

 父や兄の言葉通り、やはり誠吾の周りには人が集まってくる。誠吾にそばにいるようにと言われたけれど、女性からの視線が痛くて、今すぐにでもこの場を離れたかった。

 誠吾の影に隠れるように立っていると、誰も彼女が社長令嬢とは思わないようで、昔から芹香を知る人から驚いたように声をかけられると、すかさず誠吾が、
「今日は友人がいないもので、彼女に付き合ってもらっているんです」
と説明に入った。

「芹香さんがいるおかげで、今日は動きがスムーズです」
「それは良かったです」

 複雑な感情を抱えながら俯くと、突然会場が暗くなり、司会者による式の進行が始まった。

「何か証拠は掴めましたか?」

 父の挨拶を聞きながら、隣に立つ誠吾に囁くような声で尋ねる。誠吾はグラスを片手に首を横に振る。

「そんな簡単にはいきませんよ。もう少し時間をかけないとね」

 指先で眼鏡に触れるその姿は、刑事である頃を彷彿とさせるような鋭さを感じる。

「明智さんは……どうして警察を辞めたんですか? キャリア組だったんですよね。そのまま行けば出世コースだったはずなのに……」

 あの日からずっと気になりつつも確かめることの出来なかったことを、二人きりになった今ならと思い切って尋ねてみた。

「警察を辞めたのは私のせいですか……?」

 口にした瞬間、悲しくなる。もしそれを肯定されたらどうしよう……。もし彼を辞職に追い込んだのが私だったら──芹香は拳を握りしめ、誠吾の横顔を見遣る。

 しかし誠吾は驚いたように目を見開くと、芹香に向けて微笑んだ。

「違いますよ。たまたま友人から会社の立ち上げに参加しないかと誘われたんです。ただそれだけのことですよ」
「……本当に……?」
「本当です。これは私の意思で決めたことですから。芹香さんには何も関係ありません」
「そうですか……」
「もしかしてずっと気にされていたんですか? それならもっと早く聞いてくれれば良かったのに」

 聞けるわけないじゃない……だって私はずっと明智さんを避けていたんだから──そう思いながら、手にしていたグラスのシャンパンを飲み干す。

「私、飲み物を取ってきます」
「それなら私も……」

 誠吾が言いかけた途端に照明がつき、彼の周りには女性が数名押しかける。誠吾が追いかけてこないことに安堵し、芹香は走り出した。
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