わたしのしあわせ

わたしのしあわせ 20

その夜から水曜日の朝まで、お母さんに話すのが怖くて、ドキドキしてたの。
話す事を頭で整理しながら、このまま黙って消えた方がいいんじゃないかなんて考えたり、許してくれて、今の幸せが続く事を妄想したり、落ちつきが無かったの。

会社でもおかしかったみたいで、同期の男性に
「今日はどうしたの?ミスが多いけど、体調悪い?」って心配させちゃった。
「ごめん、なんか集中できて無いよね。大丈夫、気をつけるよ、ごめん」
「体調悪いんなら早退すれば?俺がフォローするから大丈夫だよ。なんか有れば相談のるよ、唯一の同期なんだからさ」
「ありがとう、大丈夫だよ、ごめんね」
そんな感じで2日間が過ぎたの。

水曜日の朝、習慣になったこうちゃんからのLINE。
「おはよう、学校行って来るね」「行ってらっしゃい、気をつけてね」
前の夜は、あんまり眠れなかった。

9時の時報を動くきっかけにして、立ち上がったの。
ドアを開けて、ドアを閉めて、鍵かけて、階段を降りて、お隣の玄関の前に。
ピンポンを押そうとした時にドアが開いて、お母さんが顔を出して
お母さん「おはよう、どうぞ入って」
優しく招いてくれたの。

リビングのソファーに座って、お母さんが紅茶を出してくれたの。
お母さん「じゃあ始めよっか」
私「はい」
話し始めた。

高校1年でふられた時に言われた事から始めたの。
あいつに声をかけられて付き合いはじめた事。
初めての時に泣いてもやめてくれなかった事。
ここからが怖くて、出来れば話したくなかった。
初めて露出させられた事。
オモチャを使って遊ばれた事。
あいつの友達が来てやらされた事。
マンションでされた事。
DVDをみた事。
違う女の子が映ってた事。
あいつが笑っていた事。
全部壊した事。
後から電話であいつから言われた事。
売られそうになってた事。
なんとか帰って、部屋に入ってから泣き続けた事。
途中から泣き続けたの。
泣きながら話したの。
途中からお母さんが隣に来て、わたしを抱きながら聞いてくれたの。
一緒に泣きながら聞いてくれたの。
話し終わったら私を抱きしめながら、泣き止まない私の背中をずっとトントンしてくれたの。
ようやく落ち着いて、体を起こして、その後の事も話したの。
こうちゃんに助けられた事も話したの。
露出をやめられなくなった事も。
私「私はこんな汚れた女です、こうちゃんの気持ちに答える資格の無い女です。自分から消えようとも思いました、でも決心がつきません。生まれて初めて愛してる、愛されてるという気持ちを知りました、私は今幸せです。この、初めての幸せを手放す勇気が無いんです。でもこうちゃんにふさわしくないのは確かです、歳だって離れ過ぎてます、私なんかがそばにいちゃいけないんです。だからお母さん、消えろって言って下さい、いなくなれって言って下さい、こうちゃんのお母さんの、あなたに消えろって言ってもらえれば、こうちゃんの為に消える勇気が持てるかもしれません。こうちゃんの為なら出来ます」
泣きながらだけど、なんとか全部言えた。
お母さんが私を抱きしめながら、私の頭を抱えて、撫で続けながら言ったの。
お母さん「美佳ちゃんが悪い大人に騙されて、ひどい事をされたのはわかった。それで深く心が傷付いたのもわかった。でもね、それは美佳ちゃんが悪いんじゃ無いの、子供を騙したその男が悪いの。私は美佳ちゃんが隣に越して来てからずっと見てきたの。丁寧に挨拶に来てくれて、いつも敬意を持って親しくしてくれて、こうにもとても優しくしてくれて、とてもいい子だと思っているの。私は美佳ちゃんを娘とか妹みたいにかわいく思ってるの、家族みたいに思ってるの。娘とか妹が悪い大人に騙されて、ひどい事をされて、心が病んでしまったとしても、嫌いになったりすると思う?私は美佳ちゃんが大好きなの、それは話を聞いた今でも変わらない。美佳ちゃんは私の娘であり妹、嫌いになったりしないよ。こうもね、子供の頃から美佳ちゃんが大好きなの。今でも寝言で美佳ちゃんの名前を呼ぶの。小さい頃にお嫁さんにしたいって言ってから、ずっと思い続けてるの。私とお父さんもね、美佳ちゃんがお嫁さんに来てくれたらいいなって思ってるの。もちろん美佳ちゃんにそんなことお願い出来ないのはわかってるのよ、こうはまだ子供だし。でもね、こうが大人になって、就職して、その時に美佳ちゃんがお嫁さんに来てくれたら、幸せだなって思ってるの。歳の差なんてどうでもいい、そんなことなんでも無いことなのよ。あなたは悪くないけど、悪い事をしたことが無い大人なんていないの、欠点が無い人なんていないの、あなたは被害者、ちっとも悪く無い。」
もうね、泣くしか出来なかったの。
泣いてる間、お母さんはずっと抱きしめて頭を撫で続けてくれたの。
まるで自分の子供にするみたいに。
泣き続けたの。

どのくらい泣いてたんだろう。
前の夜、緊張してて良く眠れなかったからかな、いつの間にか寝てたの。
目が覚めるとお母さんの膝で寝てた、お母さんが着てたカーディガンがかけられてたの。
起き上がって「ごめんなさい、私ゆうべあんまり寝られなくて」
お母さん「落ち着いた?泣き疲れて寝ちゃったのね、かわいい寝顔だったよ」
笑顔で優しく言ってくれたの。
あんな話を聞いた後に私に優しくしてくれるなんて、やっぱりこうちゃんのお母さんだ。
お母さん「お腹空いてない?ちょっと早いけど、お昼にする?」
時計を見るともう11時半だ。私、そんなに寝てたんだ。
お母さん「よく寝てたのよ、だから起こすのかわいそうで。何か食べに行こうか、美味しい洋食屋さんが有るんだけどそこでいい?」
私「はい」
お母さんが立ち上がろうとして、ちょっとよろけたの。
お母さん「ごめん、足がしびれちゃって」
私「私が乗ってたからですか?」
お母さん「かもね。これは美佳ちゃんの、かわいい寝顔の料金ね」
私「ごめんなさい・・」
私を抱き寄せて優しく
お母さん「こんな事で謝らないで」って。
あったかい。

私のクルマで、近くに有る洋食屋さんに行ってオムライスをご馳走になったの。
なんだかね、実家のお母さんと食べてるみたいに安心出来たの。
私、幸せなんだな。

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