ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
「あなた、一体どういうつもり??」

酒井の怒りを露わにした表情に若葉は困惑しながら、

「えっと、何がでしょうか?」

と、答えると酒井は大きなため息をついてから、

「はあ~。先生もなんでこんな人・・・。いい?この会場で先生の正体を知っている人は
皆先生って呼んでるのよ。佐野さんも名字ではなくかずって呼んでたでしょ。私たちは、先生の正体がバレないよう
皆で協力してるのよ。先生のようなすばらしい才能の持ち主が安心して仕事に没頭できるよう、先生の
環境を守ってるのよ。それなのにあなたはゲームの製作者を知りたがってる大勢のファンや
記者がいるところで先生の名前を出すなんて。本当にありえないわ!」

本当に酒井さんの言う通りだ。ぐうの音も出ない。

「も、申し訳・・・。」

と言いかけたところで、若葉は両肩に重みを感じた。
東堂が後ろから若葉の肩に手を置いたのだ。

「その辺にしといてもらえるかな。」

と、東堂は、無表情で酒井に言った。

「私はただ、先生のためを思って・・・。」

と酒井が言うと、東堂は、酒井のことは一切見もしないで、
若葉に、

「行こう。」

と、言って、そのまま若葉の肩を抱いて歩き出した。
若葉は東堂に肩を抱かれたままだったので、睨みつける酒井に、軽く会釈するのが精一杯だった。

しばらく歩いてから、

「大丈夫だった?」

と、東堂が心配そうに若葉の顔を覗き込んだ。

若葉は東堂の整った顔のあまりの近さに驚き、

「あ、は、はい。大丈夫です。」

と、動揺しながら答えた。そして一拍おいてから、

「私、無頓着で・・・。楽しさのあまり、つい本名で呼んでしまって。
本当に申し訳ありませんでした。」

「気にしなくていいよ。じゃあこれを機に、下の名前で呼んでもらおうかな?」

と、東堂は優しく微笑んだ。

私のミスを責めたりしない。ああ、なんて優しい人なんだろう・・・。
若葉は胸が熱くなる。

「冬英(かずひで)って呼んでくれるかな。」

「は、はい。か、かずひでさん。」

若葉は照れながら、小さな声で言った。
東堂はうれしそうに微笑んだ。
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