恋の♡魔法のチョコレート
どこからか冷っとした空気が流れてきた。


どこも開いてないはずなのに、暖房の付いたこの保健室で。

ココアを飲んだ琴ちゃん先生がゆっくりマグカップを置いた。

「私と小鳩くんね…幼馴染みなの」

「幼馴染み…?」

「そう、家が隣なの。今は1人暮らししちゃってるから、昔はだけど…子供のころはよくうちに遊びに来てたの小鳩くん」

そう話す琴ちゃん先生は少し微笑んで、少し寂しそうだった。

「今でもしょっちゅう保健室来てるけどね、子供の頃からあんまり丈夫な子はなかったからよくうちで一緒に遊んでたの」

じぃっとマグカップの中を琴ちゃん先生が見つめてる。
甘い香りがするココアの入ったマグカップを。

「それがお菓子作りだったのね」

少しずつ繋がっていく気がした。

疑問だったことが、点と点が線になっていくような。

「最初は私の方が教えてたんだけど、小鳩くん手先器用だし丁寧だし吸収もいいからすぐに私より上手くなっちゃってて…気付いたら私の方が教えてもらってた」

ふふっておぼろげに笑った。

何かを思い返してるみたいに、懐かしいような表情だった。

「小鳩くんの作るチョコレート、柳澤さん食べたことある?」

「うん、部活で!…あるかな」

「おいしいよね!それでいて可愛いし、本当お店で売ってるみたいな!」

今度はさっきと表情を変えて身を乗り出して瞳を輝かせた。

もうぬるくなってしまったココアの前に両肘を置き、目の前で手を合わせた。

にこやかに笑って、…でもそのあと静かに目を閉じた。

「あれは小鳩くんの愛が詰まってると思うの」

何を思い出したんだろう。

私のココアも飲み切る前にすっかり冷めてしまった。

「昔は敬語で話す子でもなかったのに高校入ったら急に話し出して距離感じちゃうし」

「…。」

「なんでチョコ研辞めちゃったのかな…、あんなに好きだったのに」

あの日私に託したチョコレートはどのチョコレートより想いが込められていた。


小鳩の想いがいっぱいいっぱい。

だから羨ましいと思ったの。

それはどうして?って聞かれたら…



小鳩がチョコレートを届けたい人だったから。



小鳩が何より大切にしてるチョコレートを。


「柳澤さんには話してるかと思ったんだけど」

「…なんで?」

「だって柳澤さんといる小鳩くん楽しそうだったから」

笑った顔が眩しい。

私なんて全然、琴ちゃん先生の足元にも及ばない。


チョコレートを開けた瞬間から伝わった小鳩の気持ち。


きっと小鳩は琴ちゃん先生のことが好き。


だから最後に渡したかったんだ。


でも渡せなかったんだよね。



“もうすぐ結婚するの”
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