恋の♡魔法のチョコレート
「あれ柳澤さん、どうしたの?」

ドアを開けるとコーヒーの香りが漂ってきた。
コーヒーの入ったマグカップを片手に窓に寄り添いながら、琴ちゃん先生は外を見ていた。

「今日で終わりだね~」

「……。」

「冬休み明けたらあるけどね、学校は」

「…。」

クスクスと1人で笑って、でも一瞬だけ私を見た瞳はほんのり赤くなっていた。

「…柳澤さん、今日は終業式だよ。がんばって出てみっ」

「琴ちゃん先生!」

私の声に琴ちゃん先生が振り返る。

たぶん私の方が泣きそうな瞳だったと思う。

「柳澤さんっ、大丈夫?そんなに体調悪いの?」

すぐにコーヒーカップを机に置いた琴ちゃん先生が駆け寄ってきた。

「…琴ちゃん先生、今しあわせ?」

「え?」

「もうすぐ結婚するんでしょ、しあわせだよね!?」

「………。」

「無理やり結婚するわけじゃないんでしょ!?」

眉をハの字にして、困ったように微笑んだ。

その瞬間、瞳がじわっと熱くなった。

「やだっ、せめて琴ちゃん先生が笑っててくれなきゃやだ!そんな顔しないで!」

ポロポロと溢れる涙を必死で拭った。 

なんで涙が出てきたのかわかんない。

どうして泣いてるのかわかんない。

だけど琴ちゃん先生が笑っててくれないと、しあわせだって言ってくれないと、小鳩の作ったチョコレートが意味を持たなくなっちゃう。

おめでとうって、言いたかった小鳩の想いが消えてしまうから。

「柳澤さん、しあわせよ私」

ぽんっと私の頭を撫で、優しい声で笑った。

「でもね、しあわせでも不安になることはあるし悩みは尽きなくて…嫌になることだってある。それはみんなそうよ、そうやって思う日だって涙する日だってあるよ。でも私ね、今すっごくしあわせだよ」

俯く私の顔をそっと上げて、優しく微笑んだ。

それはいつもと変わらない琴ちゃん先生だった。

「柳澤さんが心配するようなことなんて1つもないから安心して」
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