星のゆくすえ

別れは突然に

その日の午後、修道院の面々は今後どうするかを決めるため、村長の家を借りて話し合いをすることにした。

礼拝堂は見る影もなく燃えつきてしまったが、幸いにも寄宿舎は無事だった。ラノンが文字通り命懸けで持ちだした、聖者の像も無事だ。これは大聖堂から預かったもので、右手にゴブレット、左手に短刀を携えた姿の女性が(かたど)られている。“聖者ミリアム”の像だ。
この修道院を創設した修道士リジョネンとその妻オサは、王都の大聖堂からこの像を預かり、布教と精進を望まれたのだという。言わば大聖堂とこの修道院を繋ぐ絆だ。その絆を部屋の真ん中に置き、ラノンは話し合いの前に説いた。

「我々がこうして生き残ったこと、村の方々にお助けいただけること、そして、我々をこの巡りあわせへと導いてくださった神に、まず感謝をーー」

そして短い祈りが終わると、当面は村に援助してもらうとして、その先はどうするかを皆で意見を出しあった。
書記のアルフィネが、まずラノンはどうするのかを尋ねた。

「私は王都の大聖堂のお力を借りて、修道院を再建したく思います。幸い寄宿舎は残りましたから、そこで精進を続けます」

ラノンはいったん言葉を切ると、さらに次のように続けた。

「ですが、皆で残るわけにもいかないでしょう。寄宿舎が残ったとはいえ、本当に寝泊まりするしかできないのですから…。
 家に戻りたい者は戻るも良し、隣町の修道院に移りたいという者はそこでも良し。修道院が再建した後は、ここに戻りたい者は戻っても良し、そこに留まりたいならばそれでも良し…、大まかですが、私はそのように考えております」

シスターたちは顔を見合わせた。アルフィネたち年嵩のシスターたちはここに残ると言いだしたが、やはり全員は無理で、家に帰れそうな者は家に帰ることになった。そうでない者は、別の修道院に移るか、あるいは働き手を探している孤児院へ向かうことになった。

不安で涙ぐむ者、一日でも早く修道院を再建すると息巻く者ーー様々だったが、マーシャは父に手紙を書かねばならないな、とぼんやりと考えていた。

(お父様は驚くだろうな…婆やは大袈裟に迎えてくるかもしれない)

この修道服ともしばらくお別れか、と思うと何とも言えない寂しさのような感覚がある。マーシャ隣に座るマリーベルを見ると、彼女はどうするか気にかかった。彼女は二年前に孤児となって、この修道院にきたのを知っていたのだ。

「マリーベル、貴女はどうするの?」
「ここに残るわ」

強い決意を(いだ)いた瞳がそこにあった。見た目のせいでか弱く見られがちな彼女だったが、その芯は強靭であることをマーシャは思いだした。

「マーシャ、貴女は?」

マリーベルのさらに隣にいたロクサーヌが聞いてきた。彼女は孤児ではなかったが、口減らしのためにこの修道院に送られてきたのだと、彼女自身の口から語られたことがあった。

「私? 家よ」

マーシャはあえて何気なく風を装ってさらりと話した。二人とも変に気をつかわれるのは嫌がると、これまでの経験からわかっていた。

「そう。私は孤児院に行ってみるわ」

ロクサーヌもまたあっさりと反応した。

「バラバラになったわね」
「そうね。まあ、死ぬわけじゃなし」
「生きていれば十分よ」

誰かが鼻をすする音が聞こえた。マーシャは視界がにじむのを堪えきれず、立ち上がった。

「顔を洗って寝てしまうわ。おやすみ」

そう言って、いまだに騒がしい部屋の中を突っきって外に出た。
夜空では星が昨日の悲劇など知らん顔で瞬いている。マーシャは涙が袖で乱暴に目元を拭うと、村の井戸へと急いだ。
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