愛されることに 慣れていなくて
ChapterⅠ

春の日の出会い

「お母さん、桜が綺麗だよ。少し外に出てみない?」

「そうねぇ、今日はとっても調子がいいから出てみようかな」

私は母を車椅子に乗せ、病室を出た。
外に出ると、桜の花びらが母と私を包み込むように舞い落ちていく。

「ホント、今日は天気も良いし、気持ちいいわね」

母が微笑む。
優しい笑顔。
保育士だった母は、病を患い入院している。
私は学校の授業が終わると毎日母を見舞う。
今日は5校時だったので、いつもより早く病院に来ることができた。

母と病院の庭をゆっくりと散歩していると、5才くらいの男の子が一人ベンチに座り、肩を震わせていた。

「あの子、どうしちゃったのしらねぇ?」

「うん、なんか泣いてるみたいだよね。ちょっと行ってみよう」

車椅子を押しながら、男の子の前までやって来た。立ち止まり、私はしゃがんで「どうしたの?」と覗き込むように問いかけた。

男の子は泣きながらチラッと私に目を向けた。けれど、余計に泣き出してしまった。
困った私に母は

「菜々子、ハンカチで涙を拭ってあげようか」

柔らかい笑みを向ける。

私は頷くと、淡いブールーのタオル地に、小さな犬の刺繍が施されたハンカチを制服のポケットから取り出し、そっと差し出した。

「涙拭こうね」

男の子は私に涙を拭わせてくれた。
泣き過ぎたのか、身体がヒックヒックしていたので、持っていたハンカチを男の子の手に握らせ、手の指の腹でポンポンと優しく肩を叩いてみた。
それでもなかなか泣き止んではくれない。
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