愛されることに 慣れていなくて
俺はしゃがんで「どうした?」と訊いた。

「ねぇ、お兄ちゃん、王子さまなんでしょ」

「え?」

「もも!何言ってるの!」

「ねぇ、お兄ちゃん知ってる?眠り姫はね、王子さまがキスしたから目を覚ましたんだよ。菜々子先生眠り姫だもん。お兄ちゃんがキスしたら目を覚ますよ」

「そうかな」

「うん」

「こら、もも、やめてちょうだい」

「なんで?」

「お利口さんにする約束でしょ」

「もも、お利口さんにしてるもん」

「そうだよな、とってもお利口さんだよな」

「ねえ、お兄ちゃん、菜々子先生明日幼稚園来るよね。朝、もものことギューってしてくれるよね」

「ももちゃん、菜々子先生のことが好きなのか?」

「うん、だぁーい好き」

「お兄ちゃんも、ももちゃんに負けないくらい大好きだ。菜々子先生、ちょっと疲れちゃったんだ。元気になるまでお休みさせたいんだけど、ダメかな?」

「ダメじゃないよ。お休みしたら、菜々子先生元気になるんでしょ」

「ああ」

「もも、菜々子先生元気な方がいいもん」

「ももちゃんにお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

「うん、何?」

「菜々子先生が元気になって幼稚園に戻ってきたら、ももちゃんが先生のことギューってしてくれないかな」

「うん、いいよ。ももが先生のことギューってしてあげる」

ももちゃんがおもむろに小指を差し出した。

「お兄ちゃん、指切り」

俺は、小さな小指と指切りをした。


親子が部屋を出ていった後、ももちゃんの言っていたことを思い出していた。

キスをしたら目を覚ます

彼女の唇にそっと俺の唇を重ねた。
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