愛されることに 慣れていなくて

★ 知られざる初恋

4才の春、俺は彼女と出会う。
とても優しい年上の少女。

あの時から彼女のことを忘れたことなど一度もなかった。それが初恋だと気づいたのは15才の冬。

その日は12月だというのに、桜が開花を間違えてしまいそうなほどの暖かさだった。

祖父に連れられ、横浜再開発の現場を視察に訪れた。

国際的な産学連携や観光・集客、都心居住などを目的として開発されるこの予定地には、明治時代に創立され、文化財に指定されている幼稚園が存在する。

開発にあたり、騒音等の不便を生じさせてしまう旨の理解と了承を得に、会長である祖父が自ら挨拶に赴いたのだった。

挨拶を終え、園長の案内で園庭に出ると、雲一つない青空の下、軽快なリズムにのり、園児が元気よく踊っていた。その中で誰よりも元気よく体を動かしていたのは園児たちの担任であろう先生だった。やや低めで束ねたポニーテールが激しく揺れる。

その元気の良さは、強面の祖父の目尻を下げさせるほどだった。

俺たちの姿を見つけると、先生に続いて園児たちも「こんにちは〜」と元気よく挨拶をしてくれた。俺たちも「こんにちは」と返す。

俺の中に暖かい風が吹いたような感覚を覚えた。
そして先生がこちらを向いて微笑んだ瞬間、4才の頃の記憶が一気に蘇った。

幼い頃の記憶など、優しかった母との記憶以外に残っているものなど殆どない。しかし、たった一つだけ、消えることのなかったものがあった。俺の記憶の中にずっと存在していた優しい少女。透き通るような美しいブラウンの瞳を持つ少女。

彼女だ!

髪をポニーテールした制服姿の少女が浮かんだ。

園児たちが彼女の名を呼ぶ。

「ななこせんせ〜」

俺は確信した。

彼女は満面の笑みで園児を包み込む。
あの日、俺に向けてくれた笑顔がそこにはあった。

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