婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
 今日は公爵家から贈られた上質のドレスに身を包み、それなりに見た目は良い感じに仕上げてもらった。後は無事に今日を乗り切るだけ……なのだけど。

(だが……これはチャンスでもある。このパーティーで無様な姿を見せればさすがにレイナも幻滅するだろう)

 あ……今、どっと疲れがやってきたわ。

 予想していた事とはいえ、やはり不安しかない。
 だってこの人、建国記念パーティーすらも利用して私に婚約破棄させようとしているんだもの。
 せめて今日だけでも大人しくしていてほしい。
 私はポーカーフェイスを保ってはいるものの、内心かなり緊張している。心臓はバクバクと脈打っているし、さっきから手汗が物凄い。

 そんな私の頭の中にやる気に満ち溢れている声が響いた。

(さあ、本番はこれからだ。この日の為にずっとシミュレーションはしてきたからな。こんな恥ずかしい男とは一緒にいられないと思える程の醜態を見てもらおう)

 わあ、何をしようとしているのかしら。
 ていうか、あなた一体どこに力入れてるのよ……?

 心の中で優しくツッコミを入れながら、私は待ち受ける事態に戦慄しながら密かに腹をくくっていた。
 
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