婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした

11.悪く言われているのは……

 エミリア様が去って間もなく、王太子殿下もクリスティーヌと熱い眼差しを送り合いながら何処かへ消えていった。

 二人が居なくなった瞬間、会場に残った人々の話題は王太子殿下の婚約破棄劇で持ちきり状態。

「王太子殿下、身分差を超えた素敵なラブロマンスでしたわね。私もなんだかクリスティーヌ様を応援したくなりましたわ」
「ええ、ほんとよね。これから王妃教育を始めるとなると大変でしょうけど……お二人の愛の力で乗り越えてほしいですわね」
「王太子殿下もよくご決断されたな……。まさかあの侯爵令嬢との婚約を破棄するなんて……」

 耳に入ってくる内容は、揃いも揃って二人を持ち上げるものばかり。

 だけどちょっと待ってほしい。
 それってただの浮気じゃない?
 婚約者がいるのにも関わらず、新しい彼女を作ってそっちの方が可愛いから婚約者に一方的に別れを告げただけよね?
 エミリア様が本当に嫌がらせをしていたのかどうかは私には分からない。
 だけどエミリア様はハッキリと無実を訴えていた。いくら証人がいるからと言っても、まず信じるべきは自分の婚約者ではないのだろうか。
 それなのに、こんな一方的に婚約破棄を突き付けられても、エミリア様が悪者になるだけで――。

 そこまで考えを巡らせて、ようやく気付いた。
 王太子殿下の狙いが、婚約者であるエミリア様を悪者にして、平民であるクリスティーヌの株を底上げする事だったのだと。

 『真実の愛』

 王太子殿下は多くの重鎮達が集まるこの場で、それを言いたかったのだ。
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