婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした

19.心の声は聞こえなくても

 王宮内にある個室へと案内された私達は、部屋の中央部に置かれているソファーに腰かけた。
 ヴィンセント様は王宮の使用人から渡された救急箱を目の前のテーブルに置き、中からピンセットを取り出すと私の右手を取った。
 私の右手の甲に刺さっている木の棘を取り除こうというのだろう。

「レイナ、少し痛むと思うが我慢してほしい」
「あ……大丈夫です。自分で出来ますから」
 
 ヴィンセント様が持っているピンセットを渡してもらおうと手を差し出したが、彼はそれを奪われまいと手を引っ込めた。

「……いや。俺がやる」

 ムッと口を尖らせ意地を張る姿から、子供を演じていたヴィンセント様の面影を感じてムズムズとくすぐったい気持ちになった。

「……分かりました。お願いします」

 笑ってしまいそうな口元をなんとか堪えて承諾すると、ヴィンセント様はピンセットで私の手に刺さる棘を取り除き始めた。
 チクチクと痛みはするけれど、そんな事よりもヴィンセント様の真剣な表情にドキドキと胸の鼓動が高鳴り落ち着かない。
 手を握られ、そこから直に伝わる彼の熱が私の体を駆け巡る様に熱くさせ……とにかく、大袈裟に感じるほど私はこの状況にどぎまぎしているという事を誰かに分かってほしい。

 だって今までこの目で見てきたのは子供の様な彼の姿のみ。
 それがいきなりこんなに気の利く優しい好青年で、超絶イケメンに変身してしまったのだから。
 特に外見が変わった訳でもないのに、言葉遣いや態度が違うだけでこんなにも別人の様に見えるなんて……なんだか良い香りもしてきたわ。なんで香りまで変わるのよ。

「とりあず、破片は全部取り除けたはずだ」

 その声に我に返ってみると、私の手に刺さっていた棘は既に綺麗に取り除かれていた。
 ヴィンセント様は傷口に薬を塗ると、包帯でクルクルと巻き始めた。
 器用に動く手先を見つめながら、自分の不甲斐なさに恥ずかしくなる。

 だってこの傷って、私が頭に血が上って扉に八つ当たりをして出来た傷な訳で……完全に自業自得。
 そんな女性が婚約者だなんて、ヴィンセント様としてはどういう心境なのだろう。


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