災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
 ルーナの枕元に立っていたのは死神だった。

 グレーのローブを頭から被り、左手には大きく弧を描いた鎌を、右手には分厚い台帳を持っている。死期が近い者の名が書かれたそれには、いま目の前に横たわっている魔女ルーナの名もあった。

 死因は"心身衰弱"。

 なるほど、と死神は思った。確かにこんなに汚くて薄暗い陰気な場所で寝起きしておれば気力も萎えるだろう。

 だが。

 ――魔女ならば、魔法を使ってその辺りは如何様にもできるのではないか……? 部屋の少しくらいの修繕や己の身の回りの清潔を保てるだろうに。最低限、結界を張るくらいは……それをする気力すら奪われているということか……。

 死神という仕事柄、ヒトの今際の際には何度も立ち会ったことはある。なす術なく、衰弱して命尽きるケースだって見てきたから珍しいわけではないのに、何故かこの時は、目の前に横たわるこの魔女を衰弱するほどに追い詰めたものが何なのか気になった。

 感情移入してしまうからやってはいけない、と言われてはいる。だが見ずには居れなかった。

 台帳を懐にしまうと、ルーナの額に人差し指を軽く当てた。呼吸を整えて目を閉じてしばらくすると、まぶたの裏にルーナの"これまで"の様子が浮かび上がる。

 それはまるで一本の映画のようだった。

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