災厄の魔女が死神の愛に溺れるとき
第二章
 栗色のふわふわした髪を持ち、ふくふくした手足は元気よく動いて、艶のある頬を持つ健康的な赤ん坊がカゴに入れられて魔女フランの家の前にそっと置かれた。

『どうかこの子を頼みます』
 そう書かれた紙片と、少しばかりの着替えが共に入っている。

 家の主である魔女フランは、これを見つけると眉をしかめながらも抱えあげ、家の中に戻った。

 ――本当に連れてきたのかい……それほどに、か……。

 フランは子が欲しいわけではなかった。ある時遠出した際、湖のほとりで休んでいるところを、別の町に住む魔女だという者から話しかけられた。夫と思しき男性もそばに居り、暮らしに困っているからどうかこの子を買ってくれ、と言ってきた。フランは驚いた。人の命を売り買いするなどとんでもないと憤慨した。だが彼らは頑なで、フランが魔女であると判っていて声をかけてきたのだ。

 フランだって金銭に余裕があるわけじゃない。町で売るポーションでは儲けは少ない。それでも人々からありがとうと言われれば嬉しいし、何かと気にかけてくれる彼らの為を思えば、魔女としてできうる限りの協力もしてきた。そうやって何十年と暮らしてきての蓄えが少しある程度だ。だからそんなに多くは出せないが、と前おきをした上で、このくらいならどうかと出せる額を示した。

 ――金のために子供を売るような奴らだ、この金だってすぐに使い切ってしまうんだろう……。

 声をかけてきた自称魔女は夫と相談して提示された額を受け入れた。

 フランは、赤ん坊の額に手のひらを当てた。こうする事で魔力の有無などがわかる。母親は自称魔女ではなく、本物の魔女だった。

「明日、日が暮れてから私の家の前にこの子を置いておくれ。金は、この子の無事を確認できたら届けさせる」
 翌日の夕方、言われた通りに夫妻は日が沈むのを待って、フランの家の前に子を置いた。魔女の箒に乗って飛び立ったのを家の中から見届けたフランは、子を家の中に入れた。カゴから抱き上げ、四肢の動きを確認した。この小さな身体に虐待の痕が無いかも服を脱がせてしっかり見た。背中、お尻、腕、いずれも問題なかった。
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