あの夜は、弱っていたから
「今日はご馳走様でした」

レストランを出て、エレベーターに向かっていると、石井さんが足を止めた。

「…この後、部屋予約してあるんだけど、どうする?…嫌だったら断っていいから」

えっ…

会って、2回目で…。んー…ここで誘いに乗ったら軽い女って思われるのかな。

でも、身体の相性って、結構大事よね。

「…今日はやめとこうか」

ふっと優しく微笑んだ石井さんに、思わず胸がきゅんっとしてしまった。

私が悩んでたから、気にかけてくれたんだ…。

エレベーターのボタンに手を伸ばしかけた石井さんの手を制して、私は口を開いた。

「せっかくなので…お部屋行きましょう?」

「…ありがとう」

私の言葉に、石井さんは優しく微笑んだ。








広々とした豪華なホテルの一室で、石井さんと甘い時間を過ごす。

「涼ちゃん」

「肇さん」

お互いの名前を呼び合い、身体を重ね、濃密な一夜を共に過ごした。







んっ…

起きると、シャワーの音が微かに耳に届き、体を起き上がらせる。

そっか、昨日石井さんと泊まったんだ。

ガチャッ

「あっ、涼ちゃん、起きた?」

腰にタオルを巻いただけの、筋肉質な上半身が露出したままの石井さんが出てきて、私は慌てて、顔を覆う。

「いいね、その反応」

石井さんは微笑むと、ベットに腰掛ける。

ツーッと背中を石井さんの指が撫でて、私は思わず体をのけぞらせる。

「涼ちゃん、感じやすいんだね」

甘い言葉を耳元で囁かれ、私は石井さんによって組み敷かれる。

「まだ、チェックアウトまで時間あるから」

いつぶりだろ、こんな風にして穏やかな気持ちで抱かれるの。

一瞬脳裏に淳史との一夜が蘇る。

あれは、穏やかな気持ちではなかったと思う。

慌ててかき消して、目の前の石井さんと体を重ねた。


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