課長に恋するまで
 会議室にお茶を届けた後、廊下で上村課長に呼び止められた。
 反射的に身がすくむ。
 
 まだ二日目の上司がやっぱり苦手だ。

「何でしょう?」

 恐る恐る伺うと、課長が無表情なままこっちを見下ろした。
 背が高いから近くに来ると迫力がある。

「昨日のトラブルの対応は一瀬君が一人でしてくれたと聞きました。どうしてですか?」

 どうしてって言い方が責められているようで、むっとする。

 いや、だって担当者だから当たり前じゃないの?この人は何が言いたいのだろう。

「何かお叱りを受けるような対応でしたか?」

 ついケンカ腰になる。
 気は強い方だ。石上とやり合ってて、日々磨かれてる。
 課長だってケンカを売ってくるなら買ってやる。まさにそんな気持ちでいた。

「迅速な対応でよく出来ていたと思います。一瀬君が的確に動いてくれたので、納期に遅れる事もありませんでした」

 ケンカが売られると思ったら、丁寧に褒められ肩透かしに合った。課長の言葉の最後に花丸ですって言葉が続くのかと思った。

「ただ」と言って、課長はこっちを見た。
「一瀬君は一人で仕事を抱えすぎではないでしょうか?残業になりましたよね。電話を受けた間宮くんにも手伝ってもらっても良かったんじゃないでしょうか」

 目からうろこ。

 本当に思いがけない言葉だった。
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