僕の素顔を君に捧ぐ

「どうされたんですか、足」

「べつに」

如月は横を向いたまま答えた。

「もしかして、ダンスの練習で」

「余計なことを訊くな、タオルはおいて、帰ってくれ…」

言いながら優花が握ったタオルを取ろうとする。優花は咄嗟にタオルを強く握って引っ張り返した。無言の抵抗だった。

すると如月がさらに強く引っ張り返す。優花は譲らなかった。泥水がシャツの下までしみ込んで体を冷やし始めている。

「すぐ来い、すぐ帰れ…そうおっしゃるのなら従いますが…せめて、顔くらい見ていただけませんか」

如月は打たれたように目を見開いた後、優花を見つめて目を細めた。

「これから先ダンスの練習が続くのに足を痛めては、焦るのもわかります。せっかくのオフにご自分が散歩してやろうと思ったのに、痛くて連れ出してやれなくて悔しいんですよね?なら、そうおっしゃって欲しいんです。私の目を見て」

気づくと優花は涙目になっていた。

如月も疲労の限界なのは分かるが、伴走する気持ちで働き続けた優花も疲れ果てていた。

「お元気なのか、お疲れなのか、何がどう不満か、どんなことが嬉しいのか…如月さまのお気持ちを知って、きちんとお手伝いがしたいです」

優花は震える声で訴え終えると、流れ落ちる涙を、まだ泥が残る手の甲で拭いながら、挨拶もせずにマンションを出た。

ああ、これでクビは決定だ。原付を走らせながら、めちゃくちゃに叫びたい気持ちになった。


帰宅して、汚れたシャツを脱いだ。

もう着ることもないのかな、と思いながらも、ブラシで泥を落とし、洗濯する。シャワーを浴び、再びベッドに潜った。

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