あなたしか知らない


何年も経っているのに、広宗の中で母への愛は消えていなかったのだ。
ただ、どんなに広宗が後悔しても母と頻繁に会うのは難しそうだ。
彼には家庭と会社があるし、残念だが病気の母との未来はない。

「これでよかったのかな? お母さん」

祐奈は母の気持ちを知りたかった。
せっかく再会したのに、好きな人との関係は誰にも知られてはいけないのだ。
祐奈の気持ちがわかったのか、母はゆっくりと頷いた。

「会えただけで十分なのに『これからの闘病生活を支える』って言ってくれたの」

どうしても元気になりたいから、広宗の好意に甘えたいと母は微笑んだ。
祐奈は母が闘病生活に前向きになってくれたことが、ただ嬉しかった。

「祐奈とあの人のために、治療、がんばるね」

すぐに母の治療が始まった。
数週間おきに薬を投与されるのだが、副作用もあってずいぶん苦しそうだった。
側で見ている祐奈も辛くて、生まれて初めて神様に祈りたい気持ちになったくらいだ。




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