あなたしか知らない
朝早くに新幹線に乗って、祐奈は京都に向かった。
観光シーズンには少し遅い時期だったが、それでも京都の街は賑わっている。
母のお墓は東山にあった。
もちろん松浦家の墓所だから、祖父母も亡くなった祐奈の父も一緒だ。
(きっとなかよくしているよね)
祐奈が墓地までゆっくり歩いていくと、もう広宗の姿が見えた。
「やあ」
「お待たせしました」
「いや、私も着いたところだよ」
少し髪の毛に白いものが増えているが、祐奈に向けてくれる温かい笑顔に変わりはない。
「お久しぶりです」
「あれ以来だね。元気そうでよかった」
広宗はずっと祐奈のことを心配していたという。
「エドモントンはどうだい?」
伝えていなかったのに、広宗は祐奈がどこでなにをしていたのか知っていた。
祐奈が驚いた表情を見せたからか、小早川教授にカナダの製薬会社を紹介したのは自分だったと話してくれた。
ふたりは祐奈には内緒で色々と連絡を取りあっていたそうだ。
「あのまま日本にいたら、君がダメになってしまいそうだった。それでは千景に申し訳ないからね」
「そうだったんですね。ありがとうございました」
広宗が気遣ってくれなければ、今の祐奈はいなかったかもしれない。
「何度も助けていただいて、申し訳ありません」
「いや、実はあの日のことが気になっていたんだ」
凌がいきなりホテルに現れた日のことを広宗は何度も考えたという。
「あの時、凌の様子がおかしいと思ったんだ。君たちは知り合いだったのかな?」
広宗は探るような視線を祐奈に向けてきた。