壊れる君と思い出が作りたかった。
 今、こうして、インスタに書き込んでいるけど、きっと誰にも読まれることなんてない。だから、私のアカウントはノートでしかないから、思ったこと、今の考えをそのまま書くだけにする。

 私は18歳になったばかりの2月の初めにすべての意識をおいてきた気がする。

 例えば、人は人生の中でどれだけ喪失を経験するんだろう。

 例えば、人は人生の中でどのくらい微笑まれるのだろう。

 数えることができない、すべての出来事に嫌気がさしたら、私はどうやって生きていけばいいのだろうか。私はわからないし、気持ちを整理するために誰にもフォローされていない鍵垢に書きなぐる気でいる。

 

「人なんて、みんな強く生きれないよ」

 イサムは慣れた手つきで缶のコーラを開けた。炭酸が抜ける涼しい音がしたけど、すでに11月の半ばで、夏の暑さの記憶なんて忘れてしまっていた。学校の屋上から、一望する街は今日も夕日でキラキラと輝いている。

「だけど――」
「だけどなんてないよ。メル」

 イサムが微笑むと風が吹いた。その風でイサムの髪が弱く揺れた。イサムの髪は肩まで着くくらいロングだ。そして、パーマがかかっているから、アンニュイな印象を受ける。

「そんな萌え袖するなよ。セーター伸びるよ」

 私はそう言われて、急に顔が赤くなるのを感じた。手すりから手を離して、両手をスカートのポケットに突っ込んだ。

「イサムさんはさ、どうして、強く生きることができるの?」
「簡単だよ」

 イサムはそう言いながら、手すりから手を離し、身体をクルッと回して、背中で手すりに寄りかかった。そして、勢いよく、上を向いた。

 一瞬、このまま、飛び降りるのかと思った。だけど、イサムはその場に居たままだった。
 
 首から上はすでに手すりから大きく出ている。長い髪がだらっと、下がり、イサムの顎のラインが綺麗に見え、少しだけドキッとした。
 
「全部、知らないふりして笑顔でいればいいんだよ」

 そう言い終わったあと、イサムはまた元の姿勢に戻り、右手で髪をかきわけた。

 なに、言ってるんだろう。コイツ――。

 たぶん、他の学校だったら、明らかに校則違反になるはずだけど、うちの学校の校則はあるようでないものに近い。だから、派手に髪を染める以外で髪型は言われない。

「ねえ」
「なに? メルちゃん」
「なんで、人って、寿命があるんだろう」
「いいんだよ。そんなことより、どう? 話、乗ってくれる?」

 イサムの微笑みはオレンジ色で染まっていた。


 イサムの余命ノートを見てしまったのは偶然だった。

 教室に忘れ物を取りに行ったとき、教室には誰も居なかった。だけど、電気はついていた。私の席の前はイサムの席で、イサムの机にはノートが広げられていた。

 別に見るつもりはなかった。だけど、自分の席に向かっているときにノートの内容が目に入ってしまった。

・余命までやりたいこと

 余命って。予想外の言葉が目に入ってきて、私は立ち止まり、そのノートをじっくりと見てしまった。

・卒業して、半年くらいは生きたい。
・メルと付き合う。
・あとはもういい。それで十分。

「――なにこれ」

 私は理解できずに思ったことを口にした。一度、目を瞑って、すーっと息を吐いた。そして、見開き、もう一度ノートを見た。

「なんで、私――」
「マジかよ」
  
 後ろを振り返ると、右手を額に当てて、上を向いたイサムが立っていた。

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