初めては好きな人と。
 護のマンションのエントランスのロックを外してエレベーターホールへと向かうと、ちょうど開いたエレベーターのドアから、護が駆けてくるところだった。

「護」
「美月!」
「もう帰ってたの?また出かけーーー」

 走って私のところまで来た護は、そのまま私を抱きしめた。しがみついてきた、と言った方が正しいかもしれない。それくらい勢いよく、ぶつかるようにして抱き留められた。

「心配した」
「えぇ?だって、出かけてくるって言ったよね?」

 外が暗いといっても、まだ5時前。いくら何でも、それは心配しすぎ。

「だって、美月、昼過ぎからメッセージも電話も出ないんだもん。心配で帰ってきても家にいないし…、だから、もしかしてまたなにかあったんじゃないか、って…気が気じゃなくて、探しに行くとこだった」
「え、うそ、ごめん。スマホマナーモードになってたかも…」
「…ホント、勘弁してよ…寿命縮まる…」

 本気で心配してくれているのが伝わって、喉の奥が締め付けられてこみ上げてくるものがあった。

 ーーーあなたは、どうしたいのでしょうか?

 私が、どうしたいのかなんて、そんなのはずっと前から変わらない。


 私は、護のそばにいたい。
 ただ、それだけなの。


 きつく抱きしめられた、護の腕の中で私は祈りにも似た願いを込める。
 目を閉じれば、滲んだ涙が目尻から頬を伝っていった。

「美月?」

 鼻をすする私を護が覗き込む。

「もしかして、やっぱりなにかあった?まさか、」
「違うの…、そうじゃなくて…」

 ちゃんと、話さないといけないけど、やっぱり怖い。

「とりあえず、部屋に帰ろう」

 一人泣きじゃくる私に戸惑いながら、護は私を部屋に連れていきソファに座らせると、お湯を沸かしてココアを入れてくれた。私は、それを一口飲んで、気分を落ち着かせる。ずっと、何から話せば良いのか、考えあぐねていた。

「…あのね…」
「うん」

 隣に座る護は、そっと私の手を握ってくれた。
 それだけのことなのに、手から伝わるぬくもりで氷が溶けたように涙が零れる。
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