溶け合う煙

2.本気なんだけど

会員制のレストランにつくとスタッフ全員が彼の顔を見るだけで
「いらっしゃいませスミス様」
と挨拶をした。

その様子からすると、普段からこのレストランよく利用しているようだった。

支配人のような男性がトーマスを見つけるとすぐに
「こちらでございます。」
と個室を案内した。

個室に入るとスタッフが私の座る椅子を引こうとするのを制し、トーマスが自ら椅子を引いてくれた。

動作の一つ一つがスマート過ぎて、その度にときめいてしまう。

今朝、会ったばかりの人なのに…。

食前酒を出されると、前菜まで少し時間があった。

「あの。これ、お借りしていたライターです。」

今朝、借りたままになっていたライターをカバンから取り出す。

「これで君の心まで火をつけられたらいいのだが…。」
とライターを見つめ何度かカチカチと火をつけては消す。

この人はどこまで歯の浮くようなことを言うのだろう…。
こんな甘い言葉も彼が口にすると映画のワンシーンのように感じてしまうので不思議だ。
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