実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

29.見えていなかったもの

 木刀同士がぶつかり合う鈍い音と、荒い息遣いが聞こえる。ドサッて音とともに土埃が舞って、エメットの身体が地面に強く打ち付けられる。けれど、彼はすぐさま立ち上がると、真剣な表情で前を見据えた。


「もう一回、お願いします!」


 正面に向かい立ったアダルフォが小さく笑い、剣を構える。
 何度膝を突いても、エメットは愚直に剣を振り続けた。


(エメットにこんな一面があるとは思わなかったなぁ)


 わたしが家に帰って以降、エメットは時々、アダルフォに剣の稽古をつけてもらっている。
 元々アダルフォは、身体が鈍らないようにってことで、一人で訓練をしていた。走り込みや打ち込み稽古、筋トレ等々、ストイックに訓練を熟していく彼に憧れを抱いたらしい。エメットはすぐに弟子入り志願をした。


(アダルフォの方もそう。こんな一面があるとは思わなかった)


 彼はとても面倒見が良かった。どこをどんな風に鍛えていけば良いのか、言葉と態度できちんと示すし、良いところと悪いところをしっかりとフィードバックする。

 平民のエメットに武術の心得なんて無いし、騎士道をちょっと齧ってみたい程度の軽い気持ちで始めたことだろう。
 それなのに、アダルフォは嫌な顔一つすることなく、根気強く指導をしている。彼が自分に本気で向き合ってくれているって分かるからこそ、エメットも益々真剣になる。実に良い循環が出来上がっていた。


< 142 / 257 >

この作品をシェア

pagetop