実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

8.意地

「姫様!」


 それは、城での生活を始めて二週間目のことだった。分厚い書簡を抱えた見目麗しい文官に呼び止められ、わたしはゆっくりと足を止める。


「あぁ……久しぶりですね、バルデマー」


 そう口にして、わたしはそっと微笑んだ。


「……! 覚えてくださっていたのですね! 光栄です」


 そう言ってバルデマーは美しい顔を綻ばせる。


(忘れられるわけないじゃない)


 心の中で独り言ちつつ、わたしは小さく首を傾げる。
 お城に来てから色んな人を紹介されたけど、バルデマーみたいに綺麗な男性は早々お目に掛かれない。昔は漠然と『貴族は全員、美男美女』みたいに思っていたけど、ここに来て勘違いだったってよく分かった。貴族だって平民とちっとも変わらない。別に何ら特別なことは無いのである。


(っと……ランハートって人も綺麗な顔をしていたっけ)


 ふと、あの日おじいちゃんから紹介された、華やかな男性の顔が脳裏に浮かぶ。あの人の場合は綺麗と言うか、大人の色気みたいなものが先行している気がするけど、見た目が良いっていうのは間違いない。彼と会ったのもあの日が最後だけど、私の中に強烈な印象を残していた。


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