実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「不躾に呼び止めたりして申し訳ございません。初めてお会いした日からずっと、姫様にもう一度お会いしたいと思っていたのです。あの日は碌にお話も出来ませんでしたから」


 バルデマーはそう言って跪きつつ、わたしを見上げる。


(初めて会った時にも思ったけど)


 バルデマーはまるで、絵本の中の王子様みたいだ。息を吸うみたいに自然に、女の子をお姫様扱いできる人。一緒に居るだけで、自分が偉く、高貴な人物になったような気がしてくる。
 最近、色んな講師たちから『姫らしくなれ』と言われるわたしにとって、立ち居振る舞いを勉強させてもらえる貴重な人物かもしれないなぁ、なんて漠然と思った。


「今日の講義は終わられたのですか?」

「ええ。これから部屋に戻るところなんです」


 わたしが後継者教育を受けているのは、城内では既に周知の事実だ。アダルフォが分厚い本を抱えていることから、講義の帰りだって分かったんだと思う。


「……それは良かった。実は私も、先程仕事が終わったばかりなのです。宜しければお茶でも如何ですか? 慣れない生活でお疲れでしょう? 私で良ければお話をお聞きしますよ?」

「まぁ……良いのですか?」


 それはわたしにとって、甘美なお誘いだった。
 侍女達は一緒にお茶を飲んでくれないし、アダルフォは後に突っ立ってるだけで、話し掛けても相槌しか打ってくれないんだもの。こんな風に『一緒に飲もう』って言ってくれる相手が出てきたことは素直に嬉しい。


「もちろんです。陛下からも『姫様の話し相手になって欲しい』と言われておりますし、是非」


 そう言ってバルデマーは穏やかに微笑む。コクリと頷いてから、わたしはバルデマーの後に続いた。


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