実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
(大体、王様になるならお妃教育は要らないんじゃないかなぁ……)


 そりゃあ、わたしだって綺麗なものは好きだし、見ていて幸せな気持ちになるし、『わたしも欲しい』って思うけど、どうしても自分で出来なければならないのだろうか。苦手なものはどうしようもないし、得意なことを伸ばすために時間を使っても良いのではないか――――そんな後ろ向きなことを考えてしまう。


(いや、努力します……。努力しますけどね…………)


 人間だれしも、弱音を吐きたくなる時はある。わたしにとってはそれが今だった。


「姫様――――勉強だと思うから苦しくなるのです。刺繍というものは素晴らしい。我が国の文化の象徴ですもの。姫様はもっと、刺繍を楽しむ必要がありますわ」

「うん……そうね。分かってはいるんだけど」


 極力声は上げないようにしているけど、先程からもう何回も、針で自分の指を刺している。包帯を巻くような傷じゃないけれど、地味に痛いし心が荒む。己の才能の無さを痛感するのは、結構堪えるのだ。


「…………そうですわ! 姫様、そちらの作品、どなたかにお贈りになっては如何でしょう?」

「えっ……?」


 その瞬間、わたしは思わず顔を引き攣らせた。


(贈る? このヨレヨレのハンカチを?)


 絶望的な気分のわたしとは裏腹に、講師の女性は満面の笑みを浮かべた。


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