実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「姫様に今必要なものは目標とモチベーションです。大切な人に贈ろうと思えば、心を込めて針を刺せますし、刺繍をしている間、幸せな気持ちになりますでしょう? 
それに、贈られた方だって、刺繍を見る度に姫様を思い出します。姫様の掛けられた時間を、想いを感じ、温かい気持ちになれるのです。素敵だと思いませんか?」


 女性の勢いは凄まじく、とてもじゃないけど『否』と言える雰囲気ではない。


(だけどなぁ……)


 わたしはそっと手元のハンカチを見つめる。ガタガタに縫われた糸を撫でると、恥ずかしさと情けなさで笑えて来る。


(あっ)


 それでもわたしは『頑張ったね』と唯一一緒に笑ってくれそうな存在がいることを思い出した。その途端、心の中が温かく、穏やかで優しい気持ちになる。


「――――先生のおっしゃる通りですね」


 自然と唇が綻び、わたしは大きく息を吸う。
 気持ちを新たにわたしは布へと向き合った。


 
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