英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
英雄のための祝いと祭り
 ティーゼ・エルマは、祝いに溢れる町を軽い足取りで歩いていた。

 すっかり男装の似合う幼い容貌は、年頃である十六歳の少女には見えなかった。大きな深緑の瞳は公金たっぷりにキラキラと輝き、彼女のくすんだ栗色の短い髪は、彼女の歩調に合わせて落ち着きなく弾んでいる。

 王宮から一時間半の距離にある、ティーゼが暮らすサルサの町も、三日前からお祭り騒ぎが続いていた。

「ティーゼ、上機嫌だなぁ!」
「暇なら食ってかないか?」

 祭りに便乗して、路肩で店を出していた見知った男達が、ティーゼにそう声を掛けた。彼らは、ティーゼが幼い頃から、男の子達と走り回って剣を振り回していた事を知っている親しい仲だった。

「今日は仕事も休みだろ? ランドルのところで無料で酒が飲めるらしいぜ」
「ふふふ、今日は飲酒の予定はないんだな! これからギルドまで行くからさ」
「仕事熱心だな? ほれ、サンドイッチやるよ」

 ティーゼは、手渡されたサンドイッチに早速かぶりつくと、「じゃあねー」と陽気に手を振り、人混みへと紛れた。
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