高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい

半分のハートと再会



 高嶺の花。


 遠くから見るだけで、手に入れることの出来ないもの。憧れるだけで、自分には程遠い。そう学生時代から呼ばれ続けた桜庭華(さくらばはな)は医局に入りたくても入れずにドアの所で息を潜めていた。


「桜庭は美人だけど気が強くて可愛げがないよな」
「あ〜分かる分かる。まだ若かったらいいけど、確かもう三十だろ? もう少し可愛げがないと婚期逃すよな」
「いや、女医でしかも外科医ってところで既に婚期逃してるだろ」


 男性医師三人が華の話題で盛り上がっている。


「この前も呼ぶのに後ろから肩叩いただけで睨まれたぜ。まぁその顔もすげぇ美人なんだけどさ」


 華は小さく溜息をついた。


(私だってこんな風になるはずじゃなかったのになぁ)


 なかなか医局に入れず華は壁に背をついた。


 華の外見は高嶺の花と言われるだけあって美人だ。一度も染めたことのない艷やかな長い黒髪は勤務中は一つにくくっている。すっきりとしたクールな目元の縁には一つのホクロ。それがセクシーだとよく言われるが、生まれた時からついている黒い点としか自分には思えない。


 高嶺の花、なんて呼ばれたくないのに外見からそう呼ばれ、性格もクールだと思われてしまい華はいつしか自分の性格を偽るようになった。本当は人見知りで小心者で泣き虫。そんな本当の華を知っている人は数少ない。

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