溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
《どういうことなの? 院長先生って、あのお世話になった水瀬院長でしょ?》
母の一命を取り留めてくれたことで、母親自身はもちろん、私たち家族にとって水瀬院長は命の恩人だ。
その命の恩人が訪問してくるなんて、母親にとっては一体どういうことなのだろうと慌てる。
「うん、そうだよ。詳しいことは、帰ってからで。とりあえず、今から向かうから」
私自身、なんで帰るのかと訊かれると返答に困る。
水瀬院長と共に帰ることだけを伝え、一旦通話を終わらせた。
時間の猶予はあまりないけれど、ほんの少しでも前に来客があるとわかれば、いきなりよりはまだ心構えが違うはずだ。
「さっきから気が進まないようだが、小野寺は異見があるか」
沈黙が落ちた車内で、水瀬院長が口を開く。
「気が進まないとか、そういうことではなく……本当に私と……」
婚姻関係を結ぶ、結婚する──そんな言葉たちも恐れ多くてすんなり口にできない。
水瀬院長は私の言葉の続きを待っているのだろう。沈黙したまま、フロントガラスの先に目を向けている。
「……その、結婚を、考えているのでしょうか」
そう口にすると、横から小さくため息のようなものが聞こえた。