【続】酔いしれる情緒



「安藤さーん」

「っ、!」



レジの方から私を呼ぶ声。


その声の持ち主は慎二くん。


レジを指差ししているということは、代わりに入って欲しいとのお願いだろう。


いや、お前行けよ。と。そう言ってやりたいところだが、今の私にとってはそのお願いが有難く感じる。


やっと、この人の元から、離れられると。


脳内では何度も『逃げろ』の文字が浮かんでいたくらいなのだから。



「今─────」



今行く。私はそう言うつもりだった。





「春。」





たったその一言を

後ろにいるこの人から告げられるまでは。



ドッと心臓が嫌な音をたて、無意識にもゆっくりと振り向いてしまう私。


目が合えば、その人はマスク越しではあるけれどニコリと微笑んでいるみたいだった。



「今……なんて…?」



脳内では再び『逃げろ』の文字が浮かび、警報が鳴る。


無意識にも聞き返してしまったのは、紛れもなく動揺したからで。





「もう少しで春ですね。そう言ったんですよ」





雑誌に記載されている内容は未だ冬物ばかりだというのに、この人は一体どこを見てそう感じたのか。


心の奥深くで感じた違和感は一体なんだったのか。


威圧的に私を見るその目は一体何を意味していたのか。



たった今起きた出来事全てに答えは見いだせないまま、時の流れは緩やかに進んでいく。


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