好きよりも、キスをして
「(急いでるっ!)」
口パクでそう言うと、枝垂坂には通じなかったのか「それより聞いて~」とぶりっ子をし始めた。
胸糞悪い。もう、いい加減にしてくれ。
バッ
捕まれていた腕を思い切り振り上げる。急に大きな動きをしたせいで、隣にいた枝垂坂から「きゃ!」と悲鳴が上がった。
もう一度、枝垂坂に目を向けると、大げさに怯えた顔をして、床に座り込んでいた。
「静之くん……?」
「(急いでる――そんな言葉さえ、読み取れないんだもんな。お前は)」
口を動かす俺を見て、枝垂坂は「え?なに?」と困惑した顔をした。枝垂坂の取り巻きも「いつもみたいにスマホに打ってあげてよ」と彼女の味方をする。
だけど――俺はもう、コイツの言いなりにならない。そう決めたんだ。
「(じゃーな)」
最後に冷たい視線を送り、枝垂坂に踵を返す。そして、朱音と沼田が歩いて行った方へ、また全力疾走をした。