惑溺幼馴染の拗らせた求愛

「はあ……。今日も凄かったねえ……」
「嬉しい悲鳴ってやつだー」

 午後二時を過ぎ、客足がひと段落すると姉妹はようやくふうっと一息ついた。次から次へとやって来る客をすべて捌ききった心地よい疲労感で身体が満たされていく。
 しかし、悠長に休憩している時間はない。
 麻里は休憩もそこそこに直ぐにショーケースの中の在庫確認を始めた。チキンサンドはすべて売り切れ、卵サンドは残りがひとつしかない。いつもより多めに作ったのに!!
 これではアイドルタイムの間に追加分を作っておかないと夕方には品切れを起こしてしまう。なにせチキンサンドと卵サンドはSAWATARIの不動の人気を誇る看板商品だ。
 両親が営んでいた惣菜店を改装し、栞里と共にサンドウィッチ専門店を開業したのは今から一年前のこと。
 地道に常連客を増やしていった結果、栞里と麻里の作ったサンドウィッチの評判は今や順調に広まっている。

「そうだ。明音くん、裏で待ってたわよ」

 レジカウンターでお手拭きを補充していた栞里は、追加のサンドウィッチを作ろうと調理場に向かう麻里を呼び止めた。

「あ、忘れてた」

 プロポーズされたことも、後にして欲しいと言ったこともすっかり忘れ、うっかり調理場に入ってしまうところだった。

「ねえ、麻里。そんなに明音くんに素っ気なくしなくてもいいんじゃない?」
「お姉ちゃん、忘れたの?明音のプロポーズはこれで九回目でしょう」

 仏心を見せる栞里とは対照的に、麻里は苦々しい思いでいっぱいになった。
 明音からのプロポーズは二カ月ぶり、通算九回目だ。
 季節の移り変わりよりも早い周期でプロポーズされたら、そりゃあ感動も薄れていくというもの。
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