惑溺幼馴染の拗らせた求愛


 

「今日のことは忘れろ」

 玉砕した上に目の前で明音が好きだと泣かれた鷹也はどこか気まずそうに帰って行った。
 鷹也とは対照的に麻里は霧が晴れたような清々しい気持ちだった。
 本当はずっと前からわかっていた。自分の気持ちを認める勇気が出なかっただけで、心の奥底では明音のことがずっと好きだったのだ。
 しかし、自分の気持ちがはっきりしたからといって昨日の明音とのやりとりがなくなるわけではない。
 互いに気持ちがすれ違ったまま時間だけが過ぎていき、とうとう自動通報装置の工事の日がやってきてしまう。

「業者さんって何時に来るんだっけ?」
「二時だよ」

 栞里からの問いかけに麻里は即答した。
 工事には立ち合いが必要なので麻里はランチタイムが終わった後は一旦家に戻ることになっていた。
 この日もランチタイムは忙しなく過ぎていき、やがて時計の針が二時に近づいてくる。

「お姉ちゃん、私そろそろ行くね」
「はーい」

 二時になる十五分前に裏口から店を出ると、歩いて三分の自宅へと舞い戻った。
 立ち合いには明音もやって来る。
 おそらくこれが正真正銘、最後のチャンスだ。

 よかった……。まだ来てない。

 家の中には人のいる気配はなく、麻里はホッと胸を撫で下ろした。
 心の準備が出来ていない状態で明音と対峙することは避けたかった。
 明音に何と言って伝えよう。今朝からそのことばかり考えていたが、さっぱり良い案が思い浮かばない。麻里はコタツに潜り込み、延々と考えを巡らせた。

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