惑溺幼馴染の拗らせた求愛


 想いが通じ合った二人の新たな生活が始まり、一週間が過ぎた。

「おかえり」
「ただいま」

 明音はこれまで通り、沢渡家に泊まりにきている。自動通報装置の工事が延期になり、明音の番犬生活も自動的に延長が決まった。今のところ、明音の母に目立った動きはなく麻里は肩透かしを食らったような気分だった。ただひとつ変わったといえば……。

「今日のご飯はシチューだよ。明音はルーはご飯にかける派?それとも別々派?」
「任せる」

 明音の顔が近づいてきて、自然と目を瞑る。一線を超えてからふとした時にキスが会話の間に挟まるようになった。

「風呂入った?」
「まだだよ。ご飯の前に先に入ってくる?」
「麻里も一緒に入ろう」
「えっ!?」

 明音はコンロの火を消すと、麻里を担ぎ上げ脱衣所まで連れて行った。
 
「あ、もう!!勝手に脱がさないで!!」
「いいじゃん。もう隅々まで見たんだし。何をそんなに恥ずかしがってんの?」

 セーターの裾からスケベ心丸出しの手が這い寄り、麻里は慌てて振り払った。明音は恥じらう乙女心を微塵も理解してくれない。ついこの間まで単なる幼馴染同士だったのに、いきなり一緒にお風呂なんて恥ずかしいに決まっている。
 それでも嫌だと言わないのは惚れた弱みがあるからだ。

「先に入るから、後で入ってきて。覗いたら怒る」
「えー…」
「隅々まで見てるなら今更お風呂で見なくてもいいでしょ!!」

 麻里はそう突き放すと脱衣所の引き戸をピシャリと閉めた。

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