冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
安奈は激しく動揺していたが、俺の言葉を噛みしめるように何度か頷いた後、表情をやわらげる。
思い切って手を差し出すと、小さな手で力強く握り返してくれた。

「これからもよろしくお願いします、駆さん」

「ああ」

(安奈の優しさに甘えちゃいけない。これからは思っていることはちゃんと伝えていこう)

ゆっくりと関係を深めていきたい半面、更新予定の一年で安奈に信頼してもらわなくてはいけない。
そして、本当の夫婦になるためには悠長なことをしている暇はないのだ。

そう強く思った矢先、ひとつの考えが頭に浮かぶ。


「花を飾った後、スペイン語教えてやろうか?」

繋がっていた手をゆっくり解き、再び彼女と視線を交える。
俺の提案が予想外過ぎたのか、安奈は「えっ」と大きな声を上げた。

「か、駆さん……これ見て私が猛勉強していていたことに気づいちゃいました?」

「ああ、バレバレだ。第二外国語言語だもんな、話せて損はない」

安奈は覚悟を決めたのか、姿勢を正ししっかりと俺を見据える。

「駆さんに是非教えてもらいたいです」

安奈は独学で上達が遅く、相当困っていたらしい。自分でできることを増やしたいという強い気持ちを伝えてくれた。

「学生の頃しばらく習っていたし日常会話くらいはできる。ただし、優しくはできないが」

「大丈夫です! 駆さんについていきます」

安奈は安堵した表情で笑う。
こうやって表情がコロコロ変化し、喜怒哀楽が分かりやすいところ子供っぽくて可愛いらしい。
だが、仕事の時は落ち着いた女性になるギャップがまた目を追ってしまう要素になっているのだが……。

(……だめだ。また安奈を見過ぎてしまった。気持ちを入れ替えてきちんと勉強は教えてやらないと)

頬を叩いた俺を、安奈は不思議そうな顔で見つめていた――。
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