冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
一通りの検査をくぐり到着ロビーへと出た瞬間、見慣れた景色が目に飛び込んできて、ほっと肩の力が抜けた。
ここを出てミーティングが終われば家に戻れるのだ。
結婚したての頃は、駆さんがいるかもしれない緊張感に、心臓が鷲掴みにされるような重たい緊張感があったけれど、今は違う。
家は心身を休めることができる場所で、駆さんとちょっとでも話せたらいいなと思う。だってなんだかわくわくするから。

関係者専用通路に差し掛かった時、視線の先に数名のCAとパイロットらしき二人の背中が見える。
制服からして同じ航空会社だ。
一番背の高いすらりとした男性の背中を見た瞬間、ひとりの人物と脳内で繋がり足がすくむ。

「安奈、どうしたの?」

真由子の「安奈」という声に、ひとりのパイロットが振り返る。
すぐに鋭い目に射抜かれて、じわっと全部の熱が顔に集中してきた。

(駆さん……って、あんなにかっこよかったっけ?)

家で顔を合わせているのに、彼の制服姿を見るのは随分久しぶりだ。
真っ白なシャツに、深い紺のネクタイとスラックスというシンプルなスタイルがいっそう逞しい体を際立たせていた。
肩に主張している金の四本ラインが、さらに格を上げている。
家で見る彼とは違い、隙のない精悍な雰囲気をまとっていた。

立ち止まった駆さんにつられて、隣のコーパイも足を止める。
もちろん周りにいたCAも。

「あれ、村瀬ちゃんじゃないの」
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