星と月と恋の話
良いこと…。

…良いこと?

…そうだな…。

「今日の…夕飯の煮物が、凄く良い出来」

…。

…嘘ではない。

今日の夕飯は、手羽元と大根の煮物と、それから昨日買った鯛のあら汁だ。

多分今日、僕と一緒に調理実習に臨んだグループのメンバー達は、このようなメニューは好まないのだろうけど。

僕は大好物だ。

僕にとっては、これがお袋の味、って奴だし。

まぁ、お袋も何も、自分で作ってるんだけど。

「そう?確かに…今日も美味しいわね。ありがとう」

「明日は何が食べたい?」

「何でも良いわ。あなたの作る料理は何でも美味しいもの」

リクエストを聞くと、いつものこの答えが返ってくる。

褒めてもらえるのは嬉しいけど、たまには、ちゃんとリクエストしてくれても良いのに。

毎日献立考えるの、結構大変だから。

その点、たかだか調理実習で作る4品を決める為に、あれこれとっ散らかった意見ばかり出して。

たった4品を決めるだけなのに、馬鹿みたいに時間を浪費していたグループのメンバー達を見ていたら、うんざりしたものだ。

おまけに、料理なんてほぼ作ったこともない癖に、面倒なメニューや難しいレシピばかりを持ってきて…。

案の定、調理台に立たせてみると、手際の悪いこと悪いこと。

結局、全て僕が手伝う羽目になった。

そんなメンバー達には、心底辟易したものだが。

でも、頼られることに悪い気はしなかったし。

それに…。

…自分の作ったものを、美味しいって嬉しそうに食べてもらった。

そのことが何より嬉しかったし、満足感があった。

それだけだ。

「…そういえば、お友達とは仲良くしてるの?」

と、母が尋ねた。

お友達…。

「…うん。まぁ…ぼちぼち」

「この間も、朝から張り切ってお弁当作ってたじゃない?今度はいつ遊びに行くの?」

「さぁ…どうかな。いつだろう…」

母の言うお友達、とは。

つまり、星ちゃんさんのことだ。

僕は母に、星ちゃんさんと付き合ってることを話してない。

いや、何となく…話すのが憚られて、つい。

言う機会を逃したって言うか…。わざわざ口にするのは気恥ずかしいと言うか…。

だから、星ちゃんさんのことは単なる「お友達」として通している。

それでも、普段友達の話なんて口の端に上らせたこともない僕に。

いきなり友達が出来て、しかもその友達と遊びに行って、お弁当まで作ったということもあり。

母は、その名前も知らない僕の友達に、並々ならぬ親近感を覚えているらしい。
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