星と月と恋の話
「ぷっ、あんみつって」

「しかも手作り…。やっぱり貧乏な家は所帯染みてるんだね」

海咲も真菜も、呆れたような、馬鹿にしたような口調でそう言った。

…ムッ。

別に良いじゃない、美味しかったんだし。

「折角お客さんが来てるんだから、そこはケーキを買っておくとかさぁ…」

「何か盛られてなかった?画鋲とか」

「何も盛られてないわよ」

そんな嫁を虐める嫌な姑みたいなことは、何一つされてないわ。

体調が思わしくなかったんだろうに、私が来るからって、わざわざ台所に立ってあんみつを作ってくれたんだろう。

そう思うと、とてもじゃないけど「手作りのあんみつなんてw」と馬鹿にすることは出来ない。

心のこもったおもてなしだった。

何より、超美味しかったし。

「二人共誤解してるわよ。あんみつはちゃんと美味しかったわ」

「いや、味の問題じゃなくてさぁ…」

じゃあ、何の問題よ。

「あぁ、そうだ。それから、土曜日にTwittersにアップしてたあのワンピースって何だったの?」

真菜が、またしても話題を変えた。

あぁ…あのワンピース。

よくぞ聞いてくれた、って感じだ。

「あぁ、私も見た見た。土曜日にアップしてたから、あまりに三珠クン家の家デートが辛かったから、帰りにショッピングモールに寄って衝動買いしたワンピなのかと思った」
 
それは酷い誤解よ。

そんな理由で、衝動買いしたりしないわよ。

そしてあのワンピースは、ショッピングモールに売っている既製品ではない。

なんと言っても、プロの仕立て屋さんが、オーダーメイドで作ってくれたものなんだから。

「凄かったでしょ、あれ。めっちゃ可愛くて」

「そりゃまぁ…可愛かったけど、あれ何処で買ったの?」

「うん、それ気になった。あんなスタイルのワンピース、何処にも売ってないじゃん?」

そりゃそうだ。

「穴場なお店でも見つけた?私にも紹介してよ」

「うん、私も欲しい」
 
「でしょ?でも残念。あれはオーダーメイドの一点物だから、欲しくても売ってないのよ」

私は、まるで自分が作ったかのように自信満々に言った。

結月君の威を借る私。

「え?オーダーメイド?」

「いつの間に、そんなオーダーメイドワンピなんて作ったの?」

うんうん、驚いてるな二人共。

「あれね、結月君が作ってくれたんだよ」

と、私はネタばらしをした。

「え?三珠クンが?」

「うん。彼、マイミシンを持ってるほどお裁縫上手くてさぁ。着物を作るのが家業らしくて…」

私は結月君の家業のことを、簡単に真菜と海咲に説明した。

二人共、ポカンとして聞いていた。

そうだよね。私だって最初に聞いたときは驚いたもん。

「それで、私が半分冗談のつもりで、私にも手作りの洋服作ってって頼んだら…本当に作ってくれたの」

何でも、言ってみるものだよね。

スルーされるかと思ったのに、結月君の律儀さに救われた。

まさか本当に作ってくれていたとは。

しかも、あんな素敵なワンピースを。

「えぇ…!じゃああの写真のワンピースって、三珠クンの手作りなの?」

「そうだよ。凄いでしょ?」

「凄いって言うか…。…ぷっ」

と、海咲は再び吹き出していた。

…何よ。

何か笑うところあった?
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