星と月と恋の話
―――――そして、迎えた土曜日。

約束の時間に、待ち合わせ場所に行くと。

「星さん、こんにちは」

「こんにちは」

相変わらず、先に来て待ってるのね。

君が遅刻してるところ、一度で良いから見てみたいわ。

本当、几帳面なんだから。

それが結月君の良いところなんだろうけど。

「ごめーん、昨日の夜遅くまでネトゲしてたから寝坊しちゃったー」とか、絶対有り得ないもんね。

予定があるときはいつも、几帳面に、目覚まし時計をセットして寝てそう。

何なら、目覚まし時計なんか使わなくても体内時計で早起きしてそう。

「…結月君って、朝起きるとき、目覚まし時計使ったりするの?」

「え?何ですか、藪から棒に…」

いや、ちょっと気になったものだから。

確かめてみようと思って。

「何も聞かずに教えて」

「目覚まし時計…は持ってますけど、滅多に使いませんよ。朝になったら、自然と目が覚めるので…」

ほらね、言わんこっちゃない。

結月君の体内時計は優秀だ。

「それで寝坊することってないの?」

「たまにありますよ」

お?

ってことは、これから先ずっと付き合ってたら。

「済みません、ちょっと今朝起きれなくて…」とか言って、遅刻することもあるのかしら。

それはとんでもないレアケースだわ。

「じゃあ、うっかり遅刻ギリギリに教室に駆け込むこともあるの?」

なーんだ。結月君も、意外とうっかりするときもあっ、

「?いえ、そこまでは…。朝のランニングが出来ないだけで、学校には普通に間に合いますから」

「ちょっと待ちなさい。今何て言った?」

「え、ちょ、何で腕掴むんですか?」

あなたがおかしなことを言うからでしょ。

朝のランニングですって?

…やってる人、いたんだ。

あれは都市伝説か、ドラマの中だけの出来事だと思ってたわ。

「朝のランニングって何よ?」

「え?そのままの意味ですよ。朝、外を走ってくるんです。3、40分くらい…」

「40分も走るの!?」

私なんて、たった10分の持久走だって、嫌で堪らないくらいなのに。

よくも40分も走れるわね。

横腹、痛くならないの?

「この季節は良いですよ。空気が綺麗で。スッキリしますから」

完全に玄人の顔。

結月君の知らないところを、色々知りたいと思ってたけど…。

重箱の隅をつつけばつつくほど、色んなものが出てくる人だわ。

「一体何時に起きてるの…?」

「?毎朝、大体5時には…」

5時って。

小学生のときのラジオ体操だって、そんなに早起きはしなかったわよ。

思いっきり寝てるわ、私。その時間。

6時に起きたって、「今日は随分早起きしたな〜」と思うくらいなのに。

結月君はその頃、走ってるのね?

外で良い汗かいてるのね?

「家に帰ってから洗濯機を回して、お弁当と朝食を作って、食べて、お皿洗ってから学校行ってます」

「ごめん、訂正するわ。君の前世はシマウマじゃなくて、多分二宮金次郎さんだわ」

って、前も思ったわね。

やっぱり金次郎さんだわ、君は。

少しくらい、私も結月君の真似が出来たらなぁ。

私はまず、目覚まし時計がなくても起きられるようになる、その訓練から始めなきゃ駄目だわ。
< 300 / 458 >

この作品をシェア

pagetop