星と月と恋の話
「ずっと我慢してきたんだから、今日くらい好きに食べさせてやれよ」

「そうですか。それは別に好きにすれば良いですけど。でもあんなに頑張ってたのに、リバウンドしたら気の毒だと思っただけです」

「大体、お前がちゃんと止めないから、星野が倒れるに至ったんだろ?」

「僕は止めましたよ。彼女が止まらなかったんです」

「じゃあ止まるまで止め続けろよ。何の為に、星野の一番近くにいるんだよ」

え、ちょ。

二人共、大丈夫?

私はプリンを食べる手を止めて、結月君と隆盛の二人を交互に見た。

「そもそも星野がダイエットする必要なんて、ハナからないだろ」

「それは知りませんよ。僕の意志じゃなくて、唯華さんの意志ですから」

あれ?唯華さん?

って言わなかった?今。

「彼氏なら、彼女が少しくらい太ったって、笑って受け入れてやるくらいの気概を見せろよ」
 
「だから、僕は好きにすれば良いと…。子供じゃないんだから、いちいち手綱を引いて、何から何まで面倒見る必要はないはずです」

「何だよそれ?無責任じゃないか」

「…何怒ってるんですか?」

明らかに、隆盛は苛立っていたが。

対する結月君は、冷静そのものだった。

ちょ、ちょっと。

喧嘩しないで。何だかよく分からないけど、私の為に争わないで。

「怒るに決まってるだろ。星野が倒れたのはお前の責任だ」

え、えぇぇ。

「何言ってるんですか…?本人の責任でしょう。僕は止めました」

「結果止められてないんだから、お前の責任じゃないか。そもそもダイエットを始めたのだって、お前に焚き付けられたからじゃないのか?」

「言い掛かりです。さっきも言った通り、唯華さんの意志なんだから」

やっぱり今、唯華さんって言ったよね?

あれ?いつの間に、呼び名…。

い、いや。今はそれより。

「ちょ、ちょっとちょっと。喧嘩しないで」

私は、二人の口論の間に割って入った。

「僕はちっとも怒ってないですよ?」

うん、結月君は大抵、いつも冷静だよね。

明らかにイライラしてるのは、隆盛の方だ。

「落ち着いて、隆盛。結月君の言う通りだよ。私が無茶なダイエットして、勝手に倒れただけだから」

結月君はずっと止めてくれてたよ。

意固地になって、言うこと聞かなかったのは私の方。

「結月君には、何の責任もないのよ。だから結月君を責めないで頂戴」

「…」

私がそう言って止めると、隆盛は不満そうに口を噤んだ。

…そして。

結月君の方をじろりと睨み。

「…俺だったら、絶対星野をこんな目に遭わせないのに。お前は最低だな」

捨て台詞のように、結月君を罵ってから。

「それじゃ、星野。もう無茶なダイエットはやめろよ。今日はゆっくり休めよな」

「う、うん…。あ、ありがとう…」

「良いよ。気にするな」

隆盛はそう言って微笑み軽く手を振って、教室から出ていった。
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