星と月と恋の話
テレビは観ないって、前に言ってたけど。

結月君、映画は観るんだろうか。

実はすっごい映画通だったりして。

「僕、映画館って行ったことないんですよね」

って、そんなことはなかった。

映画通どころの騒ぎじゃない。

通どころか、行ったことすらないと言う。

今時の高校生で、映画館すら行ったことないって、マジ?

マジなの結月君。

嘘でしょ。映画館行ったことない人って、存在するの?

…いや、目の前に存在してるんだけど。

あんまりびっくりして、私は目を白黒させた。

凄いカルチャーショック。

映画館なんて、私、幼稚園の頃から行ってたよ。

今日まで映画館に行ったことがないなんて、結月君、どれだけ娯楽に乏しい生活してきたの。

あ、DVDレンタルして、家で観る派?

そういう人もいるか。

でも多分、予想だけど。

結月君の場合、家で観る派でもないと思う。

「…映画観ないの?結月君は」

「あ、はい…。滅多に観ないですね。観たとしても…テレビで放送されてるときに観るくらいで」

やっぱりね。

もういっそここまで来たら、結月君はこのまま、何物にも染まらない結月君であって欲しいよ。

冗談だけど。

「じゃあ、これを機に映画館デビューしてみない?楽しいわよ」

と、誘ってみたところ。

「…」

何だか、やっぱり思案顔の結月君。

…何だろう。気が乗らないのかな。

「…星ちゃんさん、そんなに観たい映画があるんですか?」

と、聞かれた。

「えっ…と…」

そう言われると…ちょっと返事に困る。

私は別に、観たい映画がある訳じゃなくて。

ただ単に、映画館デートなら話題に困ることはないっていう、真菜のアドバイスに従ってるだけで…。

別段…観たい映画がある訳では…。

「そ、そうだな…。特に観たい映画がある訳じゃないんだけど…」

「…」

何を観るかなんて、映画館に行ってから決めれば良いやと思ってた。

今は、何が上映されてるんだっけ?

恋愛モノじゃなきゃ何でも良い。

「…だったら、映画館は遠慮します」

えっ。

結月君、今何て?

「星ちゃんさんがどうしても観たい映画があるなら、付き合いますけど…。そうじゃないならやめておきます」

「あ、そ、そっか…」

ま…まさか断られるとは。

あれほど押しに弱い結月君が。断るときはきっぱり断るのね。

でも、何でそんなに頑なに、映画館デビューを敬遠するんだろう。

鋼の意志があるんだろうか。決して映画館には行かぬ!みたいな。

ぐぬぬ。

こんなことなら、嘘でも観たい映画をリクエストすれば良かったかな。

なんて、後悔しても仕方なかった。
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