曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心
結婚
 穏やかな秋の日に、亮輔さんと私は結婚した。

 プロポーズされてから一年。

 二人で結婚式場やホテルを見に行って、納得出来る式場に決めた。

 式次第や引出物など、二人で相談しながら決めていった。

 招待客を誰にするのか、どこまで来て頂くのか、話しながら……。

 ああ。私は亮輔さんと結婚するんだと実感が湧いたのを良く覚えている。


 幸せだった。これ以上ないくらい私は幸せな花嫁になれるんだと夢のような時間を過ごした。




 結婚してニか月が経っていた。


 亮輔さんは、いつも優しく抱いてくれた。

 経験のなかった私も愛される歓びを知るようになっていた。




 そんな時、亮輔さんに愛された後……。

 彼の腕の中に包まれて、微睡んでいた。



 「あ……や……」


 えっ?
 今、何て言ったの?

 あや?
 私には、そう聞こえた。


 単なる寝言だと思った。深い意味はないのだろうと……。






 お正月が来て亮輔さんと二人で彼の実家を訪ねた。

 義母の手作りのおせち料理を頂いて、私も後片付けなどを手伝わせてもらった。



「亮輔。年賀状来てるわよ。結婚のお知らせしてなかったの?」

「誰から?」

「高校の時の友達じゃないの?」

「ああ。あいつ引っ越して住所が分からなかったんだよ」

「そうなの。そうそう、綾ちゃんからも来てるのよ。毎年、私達に年賀状をくれるのは綾ちゃんだけよね」



 あや? もしかしてあの時の寝言の……?

「あやさんって?」
私は思い切って聞いてみた。

「亮輔の従妹の綾ちゃん。東京の大学に行って、劇団にも入ってたの。女優さんになりたかったのよね。あんなに綺麗な綾ちゃんでもなれなかったのよ」

「テレビドラマに出て来るのを楽しみにしてたんだけどなあ」
と義父も残念そうだ。

「やっぱり難しい世界なのかしらね」


「そうなんですか……」

「今は、インテリアデザイナーをしてるのよ。大学では建築の勉強をしてたからね」

「お会いしてみたいです」

「そうね。仕事が忙しいみたいで、なかなか会えないんだけどね」



 私は亮輔さんの顔をそっと見た。

 その表情で、分かってしまった。

 従兄妹なら日本では婚姻出来る一番濃い血縁者……。

 好きだったの?
 ううん。もしかして愛してたとか……。




 だから私との結婚までに三年も掛かったのね……。



 あやさんを諦めるのに、それだけの時間が掛かったのよね……。




 こういう時の女の勘は、まず外れる事はないと思う。


 心の中は複雑だったけれど……。





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