寄宿舎に住む弟の部屋にある二段ベッドの上で寝て目覚めた時隣に居た、とびきりの美青年にあるお願いをした私の思い違い。
 私は我が身に起こった急転直下の事態に慌てふためき、たった一人の血の繋がった弟の元へと取るものも取らずにやって来た。

 そして、そんな私が取れなかったもののひとつには、睡眠時間も含まれている。現在、とても眠い。油断してちょっとでも気を抜けば、上と下の瞼がくっ付いてしまいそうなのだ。

 授業中だった弟を訪ねて来た私がすぐに案内されたディランの現在の住まいは、男子寮の寄宿舎の一部屋だ。

 入学したばかりの彼は、なんでも伝統で最高学年の監督生と同室らしく、私が想像していた部屋よりかなり広々としていた。

 壁際に備え付けられていた二人部屋のベッドは、こういった寄宿舎らしい、シンプルな二段ベッドではあったけど。

「……姉さん。僕は別にそれを嫌だって言っている訳じゃないんだよ。ただ、普通に考えてとても無理なんじゃない……? 一騎士として、二十年も働いて来た父さんが……今から高位貴族となる、侯爵になるなんて……伯父さんが何を考えて、あの父さんに遠縁で空位になった爵位をやるって言って来たかは、知らないけど。伯父さんがそこを兼任するのは、ダメかな……難しいのかな」
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