寄宿舎に住む弟の部屋にある二段ベッドの上で寝て目覚めた時隣に居た、とびきりの美青年にあるお願いをした私の思い違い。
 国一番の寄宿学校に奨学生として通えるほどに優秀な弟のディランはずり落ちそうになる眼鏡を、何度か鼻へと戻しつつ、憂鬱そうな顔で言った。

 面倒なことになったと言わずもがなな表情の彼がそう思ってしまった気持ちは、私にもわからんでもない。

 私たちの姉弟二人の父親は騎士として身を立てては居たものの、ここ数十年幸いにも戦争などの目立った争いなどもなく。この国は、国民として喜ばしいことにとても平和だった。

 だから、要するに騎士だった父の担当した仕事と言えば、ほとんどが王都の治安維持に関する業務か、書類書きなどが彼の主な仕事だったのだ。

 実戦などの経験はほぼない、いわゆる昼行灯騎士だ。

 彼はアルブム侯爵家の三男としてすくすく育ち、爵位などの家督を継げぬ身分であったので若い頃騎士となるか、実業家になるかで悩み騎士となった。

 騎士団に入団したての頃に、何かで手柄を立てたらしく騎士爵を授与されてはいるものの、それは父親のその人限りの一代爵位だった。母を亡くしてからも真面目に働き、そんな彼に育てられた私と弟はグレることもなく今に至る。
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