寄宿舎に住む弟の部屋にある二段ベッドの上で寝て目覚めた時隣に居た、とびきりの美青年にあるお願いをした私の思い違い。
 つまり、四十代の今から領地を持つ侯爵になるなど、全く思いもしなかった人なのだ。そして、生まれてからずっと一緒に暮らした娘の私から見ても、とても頼りない。

「私だって、そう思うわよ……けど、あのマッケンジー伯父様が、遠縁の爵位が空位になってしまったから継げと、お父様に直々に言って来たんだから。これをあの人が断れるはずなんて、ないわ。だから、もうこれは決定事項よ。私たちが何とか言って、動かせるような段階ではないわ」

 お父様の一番上の兄、現アルブム侯爵であるマッケンジー伯父様は威厳があると言えば聞こえは良いけど、めちゃくちゃ厳しいし怒ると本当に怖い。彼が同じ部屋に居るというだけで、肌にビリビリとした空気を感じるのだ。

 私の中で、もしこれから一生会わなくても良い人物を選べと言われて選ぶのなら、彼が紛うことなき第一位だった。

 そんなマッケンジー伯父様が昨夜、いきなり我が家へと先触れもなく現れて、兄の登場に呆気に取られていたお父さんに「お前、侯爵になれ」と言って来たのだ。
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